Google広告のCPAが悪化し続けるなら、アカウント構造から作り直すべき——実例で学ぶ設計の組み立て方
「CPAが毎月、じわじわ悪化している」
代理店との月次ミーティングで、この報告を何度も聞いている経営者は多いはずです。入札戦略を調整しても、広告文を変えても、キーワードを追加しても、改善は一時的。気づけば元の水準に戻り、しばらくするとさらに悪化していく。
このパターンに陥ったとき、多くの代理店が提案するのは「入札の見直し」「キーワードの追加・除外」「広告文のABテスト」といった配信の調整です。でも、悪化が構造的な問題から来ている場合、これらはどれも対症療法にしかなりません。本質的な治療には、アカウント構造そのものの作り直しが必要になります。
前回の記事(広告費を月数百万使ってるのに効果が見えない経営者へ)では、CV価値の階段設計という、広告の「ゴール設計」の話を書きました。今回はその続編として、配信側のアカウント構造をどう作り直すかを扱います。ゴール設計が広告運用のエンジンなら、アカウント構造はトランスミッション。両方が揃って初めて、広告費が事業成果に変換されます。
記事は少し長くなりますが、複数商材を複数エリアで展開するBtoC事業者で、月数百万円以上の広告費を投入している方にとっては、そのまま社内検討に使える実装レベルで書いています。
この記事の結論
- 問題の正体:CPA悪化の多くは「入札・クリエイティブ」ではなく「アカウント構造」に根本原因がある。配信調整では治らない
- 改修手順:キャンペーン→アドグループ→キーワード→広告文の順で上から作り直す。逆順は必ず手戻りを生む
- キャンペーン設計:複数エリア×複数商材の事業は「エリア×商材」の両軸で細分化。3エリア×4商材=12キャンペーンが基準
- アドグループ設計:「軸(商材呼称)」と「掛け合わせ(ユーザーの検索語)」で検索意図が揃うグループに整理
- キーワード設計:成約データから逆算。想像で拡張せず、コンフリクト排除を徹底
- マッチタイプ:完全一致を主軸、インテント一致を保険に。フレーズ一致は中途半端なので積極採用しない
- KPI:CPAに加えて「完全一致比率」と「クオリティスコア」を月次で追う
- 展開:一気に全部切替えず、1領域で検証→成果確認→段階展開。学習期間2〜3週は数字を見ない
なぜアカウント構造が広告ROIを決めるのか
まず、アカウント構造という言葉に馴染みがない方のために、最低限の共通言語を揃えておきます。
Google広告のアカウントは、こういう階層で出来ています。
- アカウント(一番上)
- キャンペーン(予算配分と入札戦略の単位)
- アドグループ(キーワードと広告文をまとめる単位)
- キーワード・広告文(実際の配信内容)
この階層の設計が、広告AIの学習の単位になります。Google広告のAIは、キャンペーン単位で予算を配分し、アドグループ単位で広告を出し分け、キーワード単位で入札を調整する。つまり、アカウント構造はAIに「何を基準に最適化してほしいか」を教える設計図なんです。

構造が崩れていると、何が起きるか
アカウント構造が雑だと、AIが学習の方向を見失います。具体的にはこういう現象が起きます。
学習データが分散する:1つのアドグループに複数の商材・サービスが混在していると、AIは「このアドグループでは何を最適化すべきか」を判断できなくなる。結果、どの商材でも中途半端な配信になる。
予算配分が歪む:キャンペーンが適切に分かれていないと、成果が出ている領域にも出ていない領域にも同じように予算が流れる。成果が出る領域を絞って投資することができない。
コンフリクトが発生する:複数のアドグループが同じキーワードに対して競合入札する状態。自社の広告同士で入札価格を吊り上げ、CPAを悪化させる。
これらの現象は、運用を続ければ続けるほど深刻化します。最初は軽微な設計ミスが、半年・1年経つうちに広告費の大きな無駄として積み上がる。定期的に構造を見直さない組織ほど、気づいたときには手遅れのアカウントになっています。
入札調整では治らない理由
構造が崩れた状態で入札調整をしても、効果は限定的です。なぜなら、入札調整は「今の構造の中での最適化」でしかないから。構造そのものが間違っていれば、どれだけ最適化しても、根本的な成果は変わりません。
たとえるなら、間違った方向を向いた車のアクセルを踏むようなものです。スピードは出ても、目的地からは遠ざかる。アカウント構造の改修は、車の向きを正しく向けてから走らせる作業に相当します。
構造改修の全体像——4ステップで作り直す
アカウント構造の改修は、上から順番に行います。キャンペーン→アドグループ→キーワード→広告文、という順序です。
ステップ | 対象 | やること |
|---|---|---|
1 | キャンペーン | エリア×商材で細分化 |
2 | アドグループ | 軸と掛け合わせで再カテゴライズ |
3 | キーワード | 成約クエリを基準に再抽出 |
4 | 広告文 | アドグループ単位で最適化 |
なぜこの順序かと言うと、下の階層は上の階層に依存するからです。アドグループの作り方はキャンペーンの構造が決まらないと決められないし、キーワードはアドグループが決まらないと整理できない。逆順でやると必ず手戻りが発生します。
では、各ステップを詳しく見ていきます。
ステップ1: キャンペーンを「エリア×商材」で細分化する
最初のステップは、キャンペーンの切り方を見直すことです。
多くの会社で見かけるキャンペーン設計は、「エリア」または「商材」のどちらか片方で切られています。「地域A」「地域B」というエリア単位の分け方、あるいは商材A専用キャンペーン、商材B専用キャンペーン……という商材単位の分け方。
どちらも間違いではないのですが、複数エリア×複数商材を扱う事業では、両方の軸で細分化するのが理想です。
具体例で考える
例えば、エリアを3つ(エリアX、エリアY、エリアZ)、商材を4つ(商材A、商材B、商材C、商材D)扱っている事業があるとします。この場合、キャンペーンは3×4の12個に分割します。

「12個もキャンペーン作るの?」と思うかもしれません。でも、これが運用側のコントロール性を最大化する構造です。
細分化するメリット
この構造にすると、以下のメリットが得られます。
予算配分を細かく変えられる:エリアXの商材Aが好調なら、そのキャンペーンだけ予算を増やす、という調整ができる。全体の平均で判断せず、個別の勝ち筋に投資を寄せられます。
目標CPAを個別に設定できる:商材ごとに粗利が違う事業なら、目標CPAも違って当然。細分化していれば、商材Aは目標CPA5万円、商材Dは目標CPA20万円、というように個別管理ができます。
学習の純度が上がる:1つのキャンペーンに複数の商材が混ざっていると、AIは平均的な最適化しかできない。分けることで、それぞれの商材に特化した学習が進みます。
パフォーマンスが可視化される:どのエリア×商材が強くて、どこが弱いかが明確になる。全体平均で見ている限り、弱い領域は強い領域に隠されて見えません。
運用コストは気にしなくていい
12キャンペーンになると運用工数が増えるのでは、と心配する方もいるでしょう。これは正しい懸念ですが、工数増加は運用側が負うべきコストです。経営者としては、成果が最大化される構造を選ぶべきで、代理店の工数を心配するのは本末転倒です。
代理店に任せている場合、「工数が増えるので難しい」と言われたら、それは代理店側の都合の話です。事業成果の最大化を優先するなら、細分化を進めてもらう方向で合意を取る必要があります。
ステップ2: アドグループを「軸と掛け合わせ」で再カテゴライズ
キャンペーンの構造が決まったら、次はアドグループの設計です。ここが実は一番のボトルネックになりやすい。
アドグループは、キーワードと広告文をまとめる単位です。同じアドグループ内のキーワードは、同じ広告文で配信されるので、検索意図が近いもの同士をまとめる必要があります。
「軸」と「掛け合わせ」とは
検索キーワードを整理するときに、私が使っているのが「軸」と「掛け合わせ」という考え方です。
- 軸:商材の本体を表す言葉(例:商材Aのカテゴリ名)
- 掛け合わせ:軸に組み合わせて検索される言葉(例:関連する課題・ニーズの表現、疑問文、地域名)
例えば、商材Aのアドグループなら、こんな整理になります。
軸(商材Aの主要呼称)
- 呼称1、呼称2、呼称3、呼称4
掛け合わせ(ユーザーが組み合わせる言葉)
- 特徴キーワード
- 問題キーワード
- 疑問キーワード
- 関連サービス名
- 比較検討キーワード
- 地域名
軸と掛け合わせを全てのパターンで組み合わせると、「呼称1 × 特徴キーワード」「呼称1 × 問題キーワード」……というように、1つのアドグループに対して複数のキーワードが自然に生成されます。

なぜこの整理法が効くのか
軸と掛け合わせで整理すると、以下のメリットがあります。
検索意図が揃う:同じ軸のキーワードは、同じ商材を探している人のはず。そこに異なる掛け合わせが付くことで、ユーザーの検討段階やニーズの違いを反映できる。
広告文が作りやすい:アドグループ単位で広告文を作るので、検索意図が揃っていると、刺さる広告文が作りやすくなる。逆に、意図がバラバラだと、当たり障りのない広告文しか書けなくなる。
クオリティスコアが上がる:検索語句と広告文とランディングページの関連性が高まるので、Googleからの品質評価が上がる。後述しますが、これがCPC削減に直結します。
成約者データを起点にする
軸と掛け合わせを決めるとき、過去の成約者がどんなキーワードで検索していたかを起点にするのが重要です。想像で作ると、実際の検索行動とズレたキーワード群になります。
過去6ヶ月〜1年の成約データから、成約に至ったユーザーが使っていた検索クエリを全て抜き出し、それをカテゴリに分類していく。このときに、「軸になる言葉」と「掛け合わせで使われる言葉」に自然に分かれます。
この作業はAIに手伝わせてもいいですが、最終的には人間がチェックすべきです。AIは過去データから統計的にカテゴライズするので、事業側の戦略意図を反映できないことがあります。
ステップ3: キーワードを「成約クエリ」から再抽出する
アドグループの骨格が決まったら、各アドグループに入れるキーワードを決めていきます。
全てを成約データから逆算する
ここでの原則は、「成約に至ったクエリ」を起点にすること。想像で作ったキーワードリストではなく、実際に成約を生み出した検索クエリから逆算します。
具体的な手順はこうです。
- 過去6ヶ月〜1年の成約データを全て抽出する
- 各成約の直前に、どんなキーワードで広告がクリックされたかを特定する
- そのキーワードを、先ほど設計したアドグループのどこに属するか分類する
- 分類しきれないキーワードは、新しいアドグループ候補として別途保管
この作業で、成約実績のあるキーワード群が、アドグループごとに整理されます。これが、新アカウント構造の骨格になるシードキーワードです。
拡張は最小限に抑える
シードキーワードが揃ったら、そこから関連キーワードで拡張していくのですが、ここで拡張を最小限に抑えるのが重要です。
多くの会社が陥るのが、「関連キーワードを山ほど追加する」というパターン。広告のカバレッジを広げたい気持ちから、類似キーワードを次々に入稿してしまう。でも、成約実績のないキーワードは、広告費を食うだけで成果を生まないことが多い。
理想は、シードキーワードを中心に、表記ゆれ(漢字・ひらがな・カタカナの違い)や若干のバリエーションだけを加えて、最小限のリストで運用を始めることです。データが貯まってから、実績に基づいて拡張していく。
アカウント全体で「コンフリクト」を排除する
キーワードを整理するときに必ずやるべきが、自社アカウント内のコンフリクト排除です。
コンフリクトとは、同じキーワードが複数のアドグループに存在していて、自社広告同士で競合している状態を指します。これが発生すると、CPC(クリック単価)が不必要に吊り上がり、CPAが悪化します。
改修時には、全キーワードを一覧にして、どのキーワードがどのアドグループに属すべきかを一対一で決めます。重複があれば、より自然な帰属先を選び、他方では削除または除外キーワードとして設定する。
この作業は地味ですが、効果が確実に出ます。コンフリクトが多いアカウントほど、整理後のCPC削減幅が大きくなります。
ステップ4: マッチタイプ戦略——完全一致を主軸に
キーワードを決めた後、もう一つ重要な論点があります。それがマッチタイプの設定です。
マッチタイプとは、登録したキーワードを「どの範囲まで配信に含めるか」の指定です。Google広告には3種類あります。
- 完全一致(エグザクト):登録キーワードとほぼ一致する検索語句だけに配信
- フレーズ一致:登録キーワードを含む検索語句に配信
- インテント一致(旧称:部分一致):検索意図が近いと判断された語句に広く配信
Google自身はインテントマッチ(一番広いタイプ)を推奨しています。AIの学習範囲を広げることで最適化が進む、という主張です。

インテントマッチの落とし穴
しかし、実運用ではインテントマッチの過剰利用が広告費の浪費を招くケースが非常に多い。
理由は、インテントマッチに任せると、AIが「この検索意図は関連性が高い」と判断した様々な語句に広告が配信されますが、その判断が事業側の意図とズレることが頻繁にあるからです。
例えば、商材Aを検索する人を狙っているつもりが、似た響きの別商材を検索する人にも配信されてしまう。見かけ上クリックは取れていても、実際には関連性の低い流入が多数含まれていて、成約につながらないクリックに広告費が消えていきます。
高単価商材の場合、この現象は致命的です。1クリックあたり数百円から数千円のCPCで、成約しない流入を大量に拾い続けると、月の広告費の半分以上が無駄になることもあります。
完全一致を主軸にする思想
私が採用している方針は、完全一致を配信の主軸に据えるというものです。
理想を言えば、検索された語句が全て完全一致で広告を表示している状態が、広告配信の最終形です。ユーザーの検索意図と、出稿側の想定が完璧に一致している状態。現実にはこの100%達成は不可能ですが、完全一致比率をKPIに据えて、継続的に上げていくことで理想に近づけます。
ただし、完全一致だけでは問題もあります。Googleの関税値(入札額の最低ラインのようなもの)に届かずに配信が制限されたり、品質が悪いと判断されて配信停止されたりするケースがある。
この保険として、インテント一致は完全には消さず、補助的に残すのが実務的な設計です。具体的には、1つのキーワードに対して「完全一致+インテント一致」の2パターンを入稿する。これで、完全一致で取れるときはそちらが優先され、取れないときだけインテントが補完する構造になります。
フレーズ一致は、私の経験では一番成果が出にくい中途半端なタイプなので、積極的に使う理由は少ない。完全一致とインテント一致の2本立てで十分です。
マッチタイプ切替の効果
完全一致主軸に切り替えると、短期的にはクリック数が減ります。配信の幅を狭めているので当然の現象です。でも、クリックの質が劇的に上がるので、CVR(コンバージョン率)が改善し、結果としてCPAが下がります。
「クリック数が減った」と代理店から報告があっても、焦らないでください。見るべきは成約数とCPA。クリック数は、質が落ちれば100倍あっても意味がありません。
クオリティスコアを第2のKPIに据える
アカウント構造を改修すると、CPAだけでなく追いかけるべき指標が増えます。それがクオリティスコア(QS)です。
クオリティスコアとは何か
クオリティスコアは、Google広告がキーワードごとに付ける品質評価の点数です。10点満点で採点され、以下の3要素で構成されます。
- 推定クリック率:その広告が検索結果でクリックされやすいか
- 広告の関連性:検索キーワードと広告文の関連性
- ランディングページの利便性:広告から誘導されるページの質
このスコアは、CPCに直結します。高いQSのキーワードは、同じ掲載順位を取るのに必要なCPCが安くなる。つまり、QSが高い=広告費効率が良い、ということです。
なぜ今までQSが注目されなかったのか
Google広告の自動入札が主流になってから、QSを個別に追う運用は少なくなりました。AIが自動で最適化するので、QSを人間が気にする必要はない、という認識が広がったためです。
でも、アカウント構造を手動で作り込む場合、QSは重要なフィードバック指標になります。構造の改修が正しい方向に向かっているかを判断する材料として、QSの推移を見るべきです。
具体的には、改修前のアカウント平均QSと、改修後の平均QSを比較する。改修が正しく効いていれば、平均QSが明確に上昇するはずです。逆に、QSが下がっている場合は、構造のどこかに問題がある可能性が高い。
完全一致比率とQSをセットで追う
私がKPIとして推奨するのは、完全一致比率とクオリティスコアの2つです。この2指標は、前述したマッチタイプ戦略とアカウント構造改修の効果を、定量的に測るものです。
- 完全一致比率:全広告費のうち、完全一致キーワード経由で消化された割合
- クオリティスコア:アカウント全体の加重平均QS
この2つが月次で改善していれば、CPA改善はその後に必ずついてきます。逆に、CPAが一時的に悪化していても、この2指標が改善傾向なら、構造改修は正しい方向に進んでいます。
検証と本番展開——安全に進めるためのリスク管理
アカウント構造の大規模改修は、事業への影響が大きい作業です。いきなり全てを切り替えると、想定外の事態が発生する可能性があります。
「一気に全部」は絶対に避ける
一番やってはいけないのが、全キャンペーン同時に新構造に切り替えること。もし新構造にバグや設計ミスがあった場合、広告配信が一斉に止まったり、CPAが劇的に悪化したりするリスクがあります。
リカバリも難しい。旧構造を全削除している場合、戻すのに相当な工数がかかります。
段階的な検証の設計
安全な進め方は、1つの領域で検証 → 成功確認 → 他領域に展開という段階的なアプローチです。

具体的な設計はこうなります。
第1段階:検証領域の選定
アカウントの中から、影響が限定的で、データが取りやすい領域を1つ選びます。例えば、あるエリアの1商材だけ、のような小さなスコープ。ここで新構造の効果を検証します。
第2段階:新旧並走
選んだ領域で、旧構造のキャンペーンはそのまま残し、新構造のキャンペーンを追加配信します。両方を同時に走らせて、成果を比較する。ここで2〜4週間のデータを貯めます。
第3段階:成果判定
設定したKPI(CPA、QS、完全一致比率、CVR)で、新構造が旧構造を上回っているかを確認。上回っていれば他領域に展開、下回っていれば設計を見直す。
第4段階:段階展開
検証で成功が確認できたら、他のエリア・商材にも同じ構造を順次展開していきます。全部を一気に切り替えず、1つずつ。
学習期間の扱い方
改修で必ず発生するのが、Google広告の学習期間です。新しいキャンペーンや構造変更があると、AIが再学習するために2〜3週間かかります。
この期間中は、CPAや配信数が一時的に悪化するのが普通です。ここで焦って元に戻すと、学習が全てリセットされて、また最初からやり直しになります。
対応は一つ。「学習期間中は数字を見ない」と事前に決めておくことです。切替後2〜3週間は、数字が荒れても動かない。代理店にも、社内にも、この運用ルールを事前に共有しておく必要があります。
大型連休のタイミングに注意
もう一つ、実務的な注意点があります。ゴールデンウィーク、お盆、年末年始などの大型連休前後は、大きな改修を避けるのがセオリーです。
理由は、連休期間中は消費者行動が普段と異なり、データが平常時の参考にならないから。連休期間のデータを使って学習が進むと、平常時の最適化がズレる可能性があります。
改修のタイミングは、連休明けから2週間以内を避け、安定期間に実行するのが安全です。具体的には、大型連休が終わってから1週間以上経過した、平日の火曜日〜木曜日あたりが理想です。
経営者として押さえるべき5つのポイント
ここまでの内容を、経営者として押さえるべきポイントに絞ると、5つになります。
一つ目は、CPAの悪化が続くなら配信調整ではなく構造改修を疑うこと。入札や広告文の調整を繰り返しても改善しないなら、ほぼ間違いなく構造の問題です。このシグナルを見逃さず、早めに構造論の議論に入ることが重要です。
二つ目は、キャンペーンをエリア×商材で細分化すること。複数エリア・複数商材を扱う事業で、キャンペーンが片方の軸でしか切られていないなら、両軸での細分化を検討すべきです。運用工数は増えますが、それ以上のリターンが見込めます。
三つ目は、成約データを全ての起点にすること。想像で作ったキーワードリストや、代理店の提案する「関連キーワード」だけに頼ると、外します。自社の成約実績から逆算した設計を最優先する。この原則は、キーワード設計だけでなく、アドグループやマッチタイプの判断にも適用できます。
四つ目は、完全一致比率とクオリティスコアをKPIに加えること。CPAだけを見ていると、改修の方向性が合っているかの判断が遅れます。先行指標としてこの2つを月次で追うことで、構造改修の効果を早期に判定できます。
五つ目は、「一気に全部」を絶対に避けること。大規模改修は必ず段階的に進める。新旧並走で検証し、成功が確認できてから展開を広げる。これを守るだけで、致命的な事故は回避できます。
広告運用は、配信ではなく設計の仕事
この記事で扱ったアカウント構造の改修は、配信作業ではなく設計作業です。どのキーワードに入札するか、どの広告文を出すかという実行レイヤーの話ではなく、事業の成果をどう広告の仕組みに反映させるかという構造レイヤーの話。
多くの中小企業が広告運用で苦戦しているのは、この設計レイヤーを代理店に丸投げしているからだと感じます。代理店は配信の専門家ですが、事業の本質を理解しているのは経営者自身です。事業側の意図をアカウント構造に反映するのは、経営者が主導すべき仕事だと思っています。
アカウント構造の改修は、地味で時間のかかる作業です。派手な新機能の導入とは違って、導入直後の感動は薄い。でも、土台を正しく作ると、その後の運用が劇的に楽になる。毎月の調整が効くようになり、改善施策の効果が見えやすくなる。長期的に見れば、最もリターンが高い投資の一つです。
前回の記事で書いたCV価値の階段設計と、今回のアカウント構造の改修。この2つが揃うと、広告運用は「出稿作業」から「数値で管理可能な投資活動」に変わります。ここまで来れば、代理店に任せきりにせず、経営として広告を扱えるようになります。
もし、自社のアカウント構造に不安を感じているなら、一度、成約データを起点にした設計レビューをやってみる価値があります。現状のキーワード・アドグループ・キャンペーンが、事業の実態と合っているか。代理店とは別の視点から見ると、改善の余地が見えることが多いです。
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